参考文献:
①藤田勉編.脳卒に中最前線.医歯薬出版.第3版.pp142 ②生田宗博著.片麻痺 能力回復と自立達成の技術.三輪書店.2008.pp10-44 ③PMデービス著.富田昌夫訳.Steps To Follow ボバース概念にもとづく片麻痺の治療法.シュプリンガー社 今回は、前回のプッシャー症状の治療編を紹介したいと思います。 ただ注意点ですが今回、紹介させていただいた書籍は 新たな治療方法も取り入れている様子もありますので、参考にしていただく時は注意していただければと思います。 <治療プログラムの考え方> プッシャー症候群の反応は左右の均衡を保つための正常な脳による反応であると考え、正常な反応が現状に適して働くようにセットを更新することが必要となる。 強制的に左右の均衡をとらせると危険回避のためプッシャー症状が強く出現するため、当たり前の動作をする中で自然に非麻痺側へ体重を偏位させて重心を保持する動作が自動的に作用するようにアプローチすることが必要である。 <治療プログラム> ①輪の取り入れ作業 非麻痺側に置いた輪を非麻痺側手で持ち、非麻痺側においたポールに上肢をリーチさせて輪をポールに通しその輪をポールの基部まで下ろす動作である。動作中は常に非麻痺側に重心が偏位した状態となり動的・静的なバランス能力の向上を図ることができる。立位か座位、リーチするポールの位置により難易度を変化させることができる。 注意点は輪を投げ入れないことである。輪を投げると投げた側と逆側(麻痺側)に体重が偏位しプッシャー症状が誘発されてしまうためである。 運動時には非麻痺側につき、体幹・足・腰の位置に注意しながら肩や非麻痺側上肢を持ちセラピスト体幹を非麻痺側体幹にくっつけるなどして患者に安心感を与えた状態で動作を誘導していく必要がある。 ②プッシャー症状を軽減させる感覚入力法 ・鏡の活用 鏡を見させ、麻痺側へ偏位している姿勢を認知してもらい、本人に体の傾斜を認識してもらい、運動の修正を求める。 この一連の過程には a.傾いた姿を視認したとして映像の傾きをしったか b.映像の傾きを知ったとして自らの体の傾きを知ったのか c.自らの傾きをとらえたとして体感的に逆に傾いていると認知している状態との乖離をどのように認知し修正したか(視認情報からの姿勢の修正か、新たに姿勢認知情報を脳へ送り姿勢修正したか) の3点が主に問われている。 正中の基準となる線などを視認させることや鏡に映った正常な姿勢のセラピストを視認させることも姿勢修正を促すのに効果的である。 ・視覚と他の感覚の統合 a.視覚と触覚 鏡と自分の姿を一体化させるため、自身の手と写った手を触るなどが効果的。ほかの物と自身とを比較して自身の傾いた状態を知ることが明確ではない場合には、自身の視覚以外の感覚を用いるか、弱化している感覚を強めて体感的垂直を正常に近づけるかの2つの方法がある。 b.視覚と内耳・首 体幹の傾きに頭部の傾きが加わっている場合は内耳の情報処理が正規でないことが疑われる。この場合は体幹と同時に頭部も立ち直り反応を促しながら姿勢の修正を加える。視覚と内耳の平衡感覚の乖離を防ぐためにも視覚を頭の動きに追随させることが必要である。 ・深部感覚‐タッピング ③立ち直り反応 a.座位で麻痺側に傾倒する人の中に、常時顔を非麻痺側へ向け、両眼も非麻痺側へ強く向けて、麻痺側肩が前下方に落ちるように出ている人がいる。 b.麻痺側の下肢は膝関節屈曲位となり立ち上がった際に足が浮き上がったり足尖だけが接地し体重を支持することができない。 この2つの問題点は麻痺側で支持し、非麻痺側に立ち直った反応となるため結果的に麻痺側への傾倒となってしまう。 車いす座位では体幹が前傾し倒れこみますから、通常の車いす座位は不安定でとても不快となるため腰を座面の前方に滑り出して背もたれに背の上部を寄り掛からせて、車いすから前方へ脱落な姿勢を取ろうとする。 立ち直り反応を修正して非麻痺側の殿部で上体の体重を支持することで体幹の傾体を減らすためには a.非麻痺側殿部に体重を偏位させ、顔・眼・肩がそれぞれ麻痺側へ向ける動作を誘導すること b.立ち上がることを考え、麻痺側の大腿四頭筋腱反射を誘発しながら、足底で蹴る動作をするように 促し足底接地をして体重を支持するようにする。 という2点が必要となる。 ④股・膝関節屈曲立位 股・膝関節屈曲立位は最も目立つ膝関節は屈曲20度程度から40度程度で、股関節は膝関節の半分程度の屈曲かそれ以上、さらに体幹の円背が加わるような立位である。足関節が背屈する場合は、腰が後方に引けて踵で体重を支え、背屈が不十分な場合は足指で体重を支持し前傾姿勢となる。 麻痺側下肢は膝・股関節が屈曲し上体も屈曲位で立位を取ると、麻痺側の足底が接地でき麻痺側で体重を支持することができる。体重の支持により膝・股関節屈曲の程度が改善し体重支持機能もそれにより改善するようになる。 <股,膝関節屈曲立位> 股,膝関節屈曲立位は最も目立つ膝関節は屈曲20度程度から40度程度で、股関節は膝関節の半分程度の屈曲かそれ以上、さらに体幹の円背が加わるような立位である。足関節が背屈する場合は、腰が後方に引けて踵で体重を支え、背屈が不十分な場合は足指で体重を支持し前傾姿勢となる。 麻痺側下肢は膝・股関節が屈曲し上体も屈曲位で立位を取ると、麻痺側の足底が接地でき麻痺側で体重を支持することができる。体重の支持により膝・股関節屈曲の程度が改善し体重支持機能もそれにより改善するようになる。 上体は十分に体幹伸展させてしまうと麻痺側下肢での支持が働かない場合があります。いずれにしろ麻痺側での支持は50%に満たないと理解しますが麻痺側でできるだけ体重をシフトさせることが必要である。 <足底板使用の股,膝関節屈曲立位> 非麻痺側の膝関節と股関節を伸展し、上体を立てるように立位をとると、麻痺側下肢は膝・股関節が屈曲し足尖が床から浮きあがりやすく麻痺側下肢で体重を指示することができにくい。非麻痺側の股・膝関節を屈曲位にさせることで両下肢に足底接地を促し、麻痺側での体重支持ができるようにする。 <股,膝関節屈曲立位の利用> 股・膝関節屈曲位での立位のとり方は、前方の台上に置いた手に体重を乗せて立つ動作、シルバーカーを押して歩く動作にある。 重い物を押し、引き、抱え前進するなどの動作は通常以上の負荷に対してより多くの筋活動を起動させて行なう動作となるため、自身の体重が重荷と感じられる場合や疲れ切ったときの歩行には股・膝関節屈曲立位が現れます。 <股・膝関節屈曲立位の運動学―ハムストリングスで膝関節伸展> 股関節が屈曲し重心が前方に位置すると重心が下方へ動こうとするので股関節には伸展が働き、股関節と膝関節を結ぶハムストリングスは伸張されます。ハムストリングスの伸張は股関節を伸展させる力で生じたのですが、膝関節においてハムストリングスの伸張力は上方と後方に動かす。 ハムストリングスの後方への伸張力は膝関節の伸展に作用し、ハムストリングスの伸張力により膝関節伸展動作を有効に作用させるには、重心線の通過位置(前方に重心偏位)が重要となる。 <ハムストリングス使用による膝伸展の利用価値> ①膝関節痛を軽減させて立つ 足底に体重がのった状態で膝伸展運動を大腿四頭筋にて行うと、膝蓋骨を大腿骨に当て脛骨に対して大腿骨を押しあてて関節面の滑り転がり運動を行なうことで膝関節伸展させるため痛みを誘発しやすい。 ハムストリングスによる膝関節伸展運動は膝関節屈曲位により下腿は前方に倒れているが、下腿の上方に付着するハムストリングスの筋力で上方に引っ張って下腿を垂直にたたせることで膝伸展運動を起こしている。 ②下肢屈曲痙性でも立てる 立位時は下肢屈曲は異常ではなくハムストリングスを中心とした膝関節伸展による立位保持の形式が作動しやすくなる。両足底をそろえて接地し、前方の台についた手に上体を前方に出すようにしながら体重をのせ頭を下げて股関節の伸展を最小にとどめるように行いながら立位動作を行なう。 ポイントは足底に体重をのせることによって、足底が床面の上をずれないようにすること。セラピストに自身が練習をつむことが必要である。 <股,膝関節屈曲立位の力学> ①股関節屈曲・上体前傾の膝関節への作用 上体の重心位置が前傾に伴って下がりますと、頭部側の重心は全身重心より下位に臀部側の重心は全身重心より上位にと相互に位置を変えます。臀部の重心の上方移動により股関節も上方移動することで膝関節は伸展運動が生じます。また上体が頭から地面に落下しないように股関節伸展筋の背部筋群・大臀筋と膝関節伸展運動にハムストリングス・下腿三頭筋・足指屈筋群が働きます。 股関節屈曲位をとった姿勢から股関節の伸展運動が起こると膝関節は受動的に後方へ移動していくことになり膝関節伸展運動が起こる。 ②ハムストリングスによる膝関節伸展 ハムストリングスは下腿の膝関節下部に停止し、ハムストリングスの筋力によるベクトルは、 a.停止部を上に引き上げる方向 b.停止部を後方に引く方向 の2方向に働く。その中のb.の力が股・膝関節屈曲位で働くことで見かけ上の膝関節伸展の運動が起こる。 ③下腿三頭筋による膝関節伸展の作用 腓腹筋はハムストリングスと協力して後方へ膝関節を押す力により膝関節を伸展する。ヒラメ筋は膝関節を通過していないがヒラメ筋が距骨より前方にある下腿上部を後方に引くことで、下腿上端の膝関節が後方に移動して膝関節伸展運動が起こる。 <立位の取り方> はじめに 立位の取り方は2種類あります。 ①股・膝関節屈曲立位 H-standingともいっており、ハムストリングスを中心に立位をとる。やや前傾で踵が地面に接地していない程度にするといいでしょう。 ②股・膝関節伸展立位 Q-standingともいわれ、大腿四頭筋の筋収縮を促しながら踵に体重をかけて立位をとります。 立てるという体感をしてもらうため、十分に立てることを説明し立ち上がり動作時は声かけは簡潔に自信ある声を腹から出すように励まして動作誘導することが重要です。 注意点 ①まずは、「非麻痺側で立って下さい。非麻痺側で必ず立てます。」と患者に声かけすることで、“非麻痺側で立つ動作を自身の体に必ず立つ”と認識してもらうことが大切です。 ②立位をとる際に麻痺側への傾体が強い方は、本来の麻痺側からの介助よりも非麻痺側からの介助が有効を本氏は提案しています。 ※これは、プッシャー症状があり麻痺側に傾いた姿勢の患者では、セラピストの麻痺側から押す介助に押し返すような反応があり、非麻痺側への体重移動が不十分になってしまうからです。 <治療プログラム> 非麻痺側から麻痺側腰部を持つ介助をし、椅子の背に非麻痺側の手をのせて立ち上がり、立位保持をする。 練習手順 ①立位保持(椅子の背を持つ) ②セラピストの手掌を持って立位保持する。 ③セラピストを持たせ非麻痺側方向外側上方へと動かす。 ④輪の取り入れ作業へと誘導します。(介助は腰部支持して) 股・膝関節屈曲立位 立位を安定して保持するためには、常に膝関節をやや屈曲位に保持して立位保持する動作を行えるよう、脳プログラムを常態化させます。 この立位姿勢をとらせて、常時非麻痺側下肢の上に骨盤を保持し、非麻痺側肩を前に回旋させて動作する方法を覚えます。 ※この時、膝関節を60度以上屈曲させて行います。 <介助歩行について> 1.非麻痺側上下肢歩行(ほぼ完全麻痺で歩く) 麻痺側下肢の麻痺の回復程度がステージⅠ・Ⅱであっても、直ちに椅子の背を押して歩く非麻痺側上下肢歩行の動作を指導します。 ①セラピストは非麻痺側に立つ ②セラピストは麻痺側骨盤外側後方を持ちます(左右骨盤を前方で押す介助ができるような上肢の位置とする。) これは骨盤が麻痺側へ偏位し、殿部が後方へ引いた状態となるのを防ぐためである。 ③他方の手で患者の非麻痺側肩前面を非麻痺側後方へ押します。これは上体が前傾したり、麻痺側へ偏位しないように非麻痺側へ体幹を適切な位置に誘導させるためである ④非麻痺側下肢で全体重を支持し重心の保持を安定させます。 ⑤非麻痺側下肢下肢から非麻痺側上肢、非麻痺側上肢から非麻痺側下肢へ重心の移動を行わせる。 ⑥床上を滑らせるように非麻痺側足底を前に出させる。セラピストは自身の足で患者の踵を後方から押して動作を介助します。 ⑦麻痺側骨盤を持つ手で骨盤を引き上げるようにして 前上方向におし、麻痺側足を少し前に出します。セラピストは自身の足で患者の踵を後方から押して動作を介助します。 ⑧非麻痺側下肢で全体重を指示する。 2.非麻痺側上・下肢歩行の運動学 a.非麻痺側上・下肢歩行の理論 非麻痺側下肢で支持していた全身重心を、同側の手でもつ椅子の背で支えるようにすると、全身重心が支持していた足と支持する手との中間に移動します。 ①このように移動させた下肢重心の真下に足を滑らすように移動させ、その位置で足の上に下肢重量さらには上体の重量をのせて支持することができるのです。 ②手は全身重心位置より上にある肩で全身重心を支えようとしているため、全身重心の落下を防ぐ作用が働きます。 以上の2点の作用により下肢重心は落下することなく麻痺側下肢を前に出す動作が行える! ↓ 実際には、膝関節を屈曲させながら足を前に滑らせるように出すため、膝関節の屈曲で股関節と足の間の距離が短縮し、この短縮した距離分を非麻痺側下肢・足底で支持していた分の重量の重心が落下する時間内で足底を前に出す動作を行うのが最適。 つまり、非麻痺側の下肢と非麻痺側の上肢の間で重心移動を繰り返すことで、新たな形式の歩行が可能になることを理論として説明し、提示できたと考えています。 b.対側下肢による受動的体重支持理論 麻痺側下肢の足底は麻痺側下肢の重量あるいはそれ以上の重量分である体重の一部を支持することになる。 この支持は、麻痺側下肢に筋収縮による支持力が有る無しにかかわらず、非麻痺側下肢を一歩出す動作に従って発生する受動的体重支持として行われる。 この動作を利用して、動作指導の際には麻痺側足をやや外側に接地するように誘導・介助することで麻痺側下肢での体重支持が可能になる。 c.麻痺側に支持能力がある場合の歩行 斜め前方歩き 歩行レベルは杖を使用せずに歩けるレベルの方が対象。 歩き方は非麻痺側斜め前方に進み、進行方向に非麻痺側肩を突き出し麻痺側肩は逆方向となり、進行方向に非麻痺側足を出します。麻痺側下肢はやや外旋・外転肢位ですが、歩き方は分回し歩行に近い。 非麻痺側斜め前方歩きでは非麻痺側で支持し麻痺側を一歩前に出す。通常勧められる歩行では、下り坂の歩行は困難です。非麻痺側斜め歩きは安定感があり安全性にも優れている。 前歩き:麻痺側足を前に出す歩き方 前方へ足を出すためには、麻痺側足底を空間内で前方へ移動させるため、非麻痺側下肢で全体重を安全に片足支持して姿勢保持しながら、麻痺側を空間にあげてから前に出す動作が必要になる。 歩行能力を維持し体力を維持するためには、生涯にわたり訓練室のあるところへ通うことになるくらい重労働になります。 前歩き:非麻痺側を前に出す歩き方 非麻痺側を麻痺側の前に出すことができれば、次の一歩で麻痺側を非麻痺側の前に出すことの可能性が高まり、連続させると通常の歩行に近づきます。非麻痺側を麻痺側の前に出しための必須条件は麻痺側で全体重を支持することです。 練習では左右の下肢の一方で全体重を支持して他方を一歩踏み出す練習や、横歩き、段の昇降が最適である。 ①低く張ったゴムを非麻痺側で超える練習 ②上記の練習に前方のポールに輪を入れる練習を加える。 ③段差昇降の練習も床から5~10cmの高さで、滑らず、がたつかない前後30cmほどの台を非麻痺側に載せ 前後に足を出し段差を下ります。
by kentarou591124
| 2010-06-06 17:33
| 文献・自己学習
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